バツイチ独身のライター・オバ記者(63歳)が、趣味から仕事、食べ物、健康、美容のことまで”アラ還”で感じたリアルな日常を綴る人気連載。
226回目となる今回は実家の近所に住んでいたトヨちゃんについて。
* * *トヨちゃんが93歳で亡くなった茨城の実家のご近所さんで、ひとりで家事をきり盛りしていたトヨちゃんが93歳で亡くなった。
村落一の口八丁手八丁で、茨城弁を話す沢村貞子と言ったらイメージが湧くかしら。
この日はいなかったけど、秋口までは畑仕事や家事がひと段落するとご近所とこうしておしゃべりしていたし、つい先日、母ちゃんが老健(介護老人保健施設)に入居する前々日には、うちにお茶飲みに来たと聞いている。
だから訃報を聞かされてもピンとこないんだわ。
トヨちゃんの顔を見ると逃げ出していた「いやぁ、ビックリしたなぁ」と、トヨちゃんをよく知るM子ちゃん(63歳)と、築地の行きつけの寿司屋「本種」で弔い酒を飲んだ。
実は私、トヨちゃんのことが物心ついたときから苦手でね。
子供の頃は彼女の整った顔を見ると逃げ出したくなった。
ま、向こうも向こうで、私をクソ生意気なガキと思っていたんだよ。
実際、村中の人が集まった席で、面と向かってやり合ったこともある。
そんな敵対関係が大きく変わったのは数年前のこと。
M子ちゃんからトヨちゃん手製の味噌をひとすくいもらったのよ。
ひとなめしてあ然としている私に、「うまいべぇ? 大豆から麹菌まで全部、昔からトヨちゃんが作ってんだよ」と、M子ちゃんは得意げだ。
よほど食い意地が張っているのね。
私はそれまでどんなことがあっても、うまいものを作ると聞くと手の平を返す。
即断即決。
さっそくM子ちゃんに仲介してもらった。
トヨちゃんは破格の値段で譲ってくれた。
うれしそうな顔を見たくてトヨちゃんの元へそれからよね。
帰省すると東京で買ったクッキーだの、羊羹を持ってトヨちゃんちの玄関を開けた。
どこかにまだあるかもしれない、あの味噌が欲しくてじゃない。
いつからか私の顔を見ると、本当にうれしそうな顔をするのよ。
それが見たくて。
トヨちゃんの味噌半月前も、トヨちゃんちは相変わらずこぎれいに片付いていた。
「まだ来っから、おばさんも元気でなぁ」「ありがとな」。
玄関先で交わした言葉が最後になった。
なんてことを思うと、胸が締め付けられて、なかなか布団から出られない。
そんな日が何日か続いた。88歳のボーイフレンドがどじょうをごちそうしてくれたそうしたら建築家のおじさま、O氏(88歳)が写真集のプレゼントを持ってやってきて、どじょうをごちそうしてくれた。
O氏は建築家・吉田五十八さんの教え子で、吉村順三さんの弟子で、今里(旧姓・杉山)隆さんは仕事仲間。
ひと時代を作った建築家の話はみな面白く、刺激に満ちている。
母ちゃんたちと同世代なのに、頭脳明晰、私の荷物を持ってくれたりするし。
柳川とどじょう鍋が効いたのか、O氏とのおしゃべりが楽しかったからか、数日しょぼくれていた心身に力がみなぎってきた、気がする。
オバ記者(野原広子)1957年生まれ、茨城県出身。
『女性セブン』での体当たり取材が人気のライター。
同誌で、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。
バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。
一昨年、7か月で11kgの減量を達成。
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