バツイチ独身のライター・オバ記者(63歳)が、趣味から仕事、食べ物、健康、美容のことまで”アラ還”で感じたリアルな日常を綴る人気連載。
232回目となる今回は、オバ記者が長年愛用する靴のお店からポスターのオファーが来たというお話です。
* * *「うちの靴のイメージにピッタリ」「あの、ポスターのモデルをお願いできないかしら」20年来の仲良し、福島県出身のえっちゃんから電話があった。
えっちゃんは、私が43歳のときに出会った靴屋さん『えこる』奥さまで、「うちの靴のイメージにピッタリなのは、なんたって野原さん。
ぜひお願いしたいの」とこう言うのよ。
聞けば、スマホでパチバチ撮ってつくるカンタンなのではなく、プロのカメラマンと、アートディレクターもつく本格的なポスターというではないの。
で、撮ったのがこの写真。
靴がさりげなく目立つように座ったポーズになったわけ。
長年、『えこる』の靴の大ファンの私は、撮影の間中、うれしくてたまらない。
というのも、友人、知人、親戚。
私と関わった人でここの靴を知らない人がいるかしらというほど、触れ回っていたんだもの。
何がそんなに? まあ、聞いて。
18歳のときの最初の就職先は靴屋さん話は40年以上前にさかのぼる。
実は18歳だった私の最初の就職先は、文京区の靴屋さん。
茨城の農業高校に求人がきたとき、一も二もなく決めたのは、これで靴コンプレックスから解放されると思ったからなの。
足のサイズが24.5といえば、今では珍しくないけれど、当時はどんな形でも足が入れば買い。
あとは痛みと格闘しながら、根性で皮が自分の足になじむまで頑張る。
そんな苦痛から解放されるには、東京で靴屋さんに就職するしかない、と茨城の田舎娘は思ったわけよ。
で、一応、思惑通りになって、めでたし、めでたし。
だったんだけどね。
40過ぎたら、足の裏のど真ん中が歩くたびに痛くてたまらなくなったの。
オシャレ靴はあきらめてスニーカーをはいていたんだけど、それでも足の裏の真ん中から飛び出した骨があたるんだわ。
そんなときよ。
駒込の裏道を歩いていたら、“中敷き免震構造”という看板が目に飛び込んできたの。
でも、店というより、倉庫? というほど靴の点数が少なくて、靴箱ばかり壁一面に積みあがっている。
それでも、何かいいことがありそうな予感がして、店の中に吸い込まれていったあの日のことは、忘れられるものではない。
独自に開発した靴と中敷き痛い靴をはいているのがどれほどのストレスか、身をもって知っている私は、『えこる』が独自に開発した靴と中敷きの理屈が、びんびんと伝わってくる。
でも問題は値段よ。
いくらひとりひとりに合わせて中敷きを作り、何度でも調整して、歩きグセに合う靴を、お客といっしょに作っていくといっても、一足3万円を超える靴ってどうなの、と、正直、びびったのよね、それで一度はあきらめたんだけど、足が靴を恋しがるの。
仕方がない。
清水の舞台から飛び降りたわよ。
「えっ? なんか、背伸びてない?」靴を履きだして1か月くらいたったある日、同い年の友だちからそう言われたのよ。
40過ぎて背が伸びるなんて話、聞いたことがない。
「もしかしたら、この靴のせいかな」と言うと、まじまじと私の足元を見て「それ、私も欲しいから、店に連れていって」というではないの。
「いい靴、知らない?」と聞かれるたびに紹介不思議なことに、あの頃、なぜか「いい靴、知らない?」と聞かれることが多くて、そのたびに『えこる』を紹介していたの。
そして月日は流れて20年。
女性は、私も含めて、そのときの流行に流され、もうちょっとかっこいい靴がいいと、ほかの靴に浮気をしたこともある。
けど、それもこれも『えこる』という実家があればこそなのよね。
しかし、男の人って頑固だね。
いったんいいと思ったらずっと吐き続けている。
30代後半の若さで腰が曲がり、姿勢が悪かったAくんは、15年の間に靴底を何度か変えてはいて、履きつぶして、いま2代目がいい感じになっている。
で、私はというと、60を過ぎてから、気がつくとこの靴ばかり。
『えこる』にも、かわいい靴があるけど、究極はこれ。
足首をカードされた半ブーツほど歩きやすい靴はないと、私じゃない。
私の足がいうのよ。
ここまで足になじむとかわいくて手放せなくてね。
と、思ったら、思わぬことが起きだしたんだわ。
「すごくかっこいい靴を履いていますけど、どこて買ったんですか?」昨年秋、アルバイト先の議員会館のエレベーターで乗り合わせた40代とおぼしき見知らぬ女性から声をかけられたのをきっかけに、何人かから「キャーツ、こんな靴、見たことない。
かわいい!」とか「いい靴ですね」とか。
履きやすくて、「かっこいい」と人から言われる靴を、63歳にして手に入れたのよね。
→「えこる」のホームページはこちらオバ記者(野原広子)1957年生まれ、茨城県出身。
『女性セブン』での体当たり取材が人気のライター。
同誌で、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。
バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。
一昨年、7か月で11kgの減量を達成。
●【231】ワークマンのバイクウェアは本当に最強防寒か?真冬の道を原付きで走ってみた●【230】新年早々、コロナ避けて犬吠埼ドライブで「痛快」●【229】なかにし礼さん秘話。
初対面で衝撃を受けた「大人の生意気」●【228】施設に入所した母ちゃん、初のリモート面会で浮かべた照れ笑い→オバ記者の過去の連載はコチラ!