2月26日より公開中の門脇麦(28才)主演の映画『あのこは貴族』。
水原希子(30才)や石橋静河(26才)、高良健吾(33才)など注目俳優が多く出演し、「日本の“シスターフッド”映画の新たな傑作」といった声も多く聞かれる話題の作品です。
(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿が、映画の見どころを解説します。
* * *【見どころ1】注目の座組が描く“貴族と庶民”の新たなシスターフッドムービー本作は、作家・山内マリコによる同名小説を、長編商業デビュー作『グッド・ストライプス』(2015年)が好評を博した岨手由貴子監督が映画化したもの。
主演を門脇麦が務め、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ(28才)ら豪華キャストが脇を固めています。
本作は、まったく異なる境遇で生まれ育った、いまを生きる2人の女性にスポットを当てた作品。
この2人を演じているのが、門脇と水原です。
つまり、ダブル主演作ともいえる作品だと思います。
岨手監督による待望の第2作目であることや、参加キャストの並びから注目を集めていた作品です。
(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会◆『あのこは貴族』あらすじ本作のあらすじはこうです。
大都会・東京で暮らしながらも、交わることのない生活を送る華子(門脇麦)と美紀(水原希子)。
なぜならこの2人は、“住む世界”がまったく違うのです。
華子は東京の上流階級に生まれ育った箱入り娘で、美紀は地方から上京し、どうにかこうにか自力で日々を生き抜いています。
そんな2人が、一人の男性・幸一郎(高良健吾)という存在を介して邂逅を果たします。
やがて彼女たちは互いの人生に触れ、それぞれの“生き方”に影響を与え合っていくことになります。
女性主人公が自らの意志によって、これから進むべき道を選び取っていく。
まさしくシスターフッドムービーです。
面白いのが、やはり華子と美紀の境遇の圧倒的な差。
近しい間柄にある者同士が互いに影響し合い、鼓舞し合う物語は古今東西ありますが、本作の2人は違います。
“身分”が大きく違うのです。
格差社会によって生じる問題が多く取り沙汰される昨今ですが、“貴族と庶民”の格差にフォーカスした作品は、そう多くはないのではないでしょうか。
単なるお金持ちと貴族は違います。
本作で描かれる貴族側の生活や実態に対して、実際に彼らの生活を見たことがない庶民である筆者は驚きの連続でした。
貴族側である逸子(石橋静河)の劇中の言葉を借りれば、「階層の違う人たちは出会わないようになっている」のだそうです。
納得しました。
【見どころ2】適所に配された俳優陣の好演が光る本作が優れている点の一つとして、とにもかくにも俳優陣が素晴らしいということが挙げられます。
もちろん、物語や各キャラクターの設定があってこそのものですが、筆者の目には門脇や水原の芝居が、物語上の“役”という枠を超えていたように映りました。
フィクションだと分かっていても、この世界のどこかに本当に生きているように感じられる。
彼女らの表現力の豊かさはもちろん、監督の演出に拠るところも大きいのでしょう。
(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会◆門脇麦が“貴族”、水原希子が“庶民”という意外性2人のキャスティングも見事です。
門脇が“貴族”で、水原が“庶民”、これはちょっと意外な気がしませんか? 2人の過去の出演作を見れば、イメージ的には逆の方がしっくりきそうな気がします。
作品ごとのいろいろなカラーに染まってみせてきた門脇は、どちらかといえば一般庶民の生活の周りにいるような、市井の人々を多く演じてきた印象があります。
一方の水原は、モデル業からキャリアをスタートさせた存在。
どうしても華やかなイメージを抱いてしまいがちです。
しかし門脇は、発する言葉の音や所作の美しさによって、おそらく多くの方が見たことがないであろう貴族の世界に真実味を与えていましたしし、都会でサバイブするさまを体現する水原の表情からは、都会で“何者か”になるため、必死に生きる若者の焦燥感が感じられました。
2人が優れた演じ手であることを、改めて思い知らされました。
高良、石橋、山下もベストなキャスティングです。
高良は家柄の良い、いわばお坊ちゃま役。
華子と美紀を繋ぐ役目を“2つの顔”を演じ分けることで担い、御曹司が背負う宿命もサイドストーリーとして展開させています。
石橋が演じる逸子は、属性に縛られず、“自立”を目指す存在。
彼女の言動の一つひとつに背中を押される人は少なくないでしょう。
そして山下が演じるのは、美紀と同郷の友人。
誰もが見聞きしたことがあるような“上京組”の苦労を、軽やかに体現しています。
【見どころ3】テーマは「格差の断絶」ではない“貴族”と“庶民”にフォーカスしていますが、本作のテーマは格差社会が生み出す断絶ではなく、“異なる価値観に触れ、自分らしく生きる”ことの大切さです。
冒頭で述べているように、主人公が自らの意志によって、これから自分が進むべき道を選び取っていく姿を描いています。
これは本来であれば、“身分”が違っても、いまを生きる誰もがその権利を持っているはずです。
ところが現代は、旧来の価値観や、個々の属する“階級”によって、この権利を奪われている人や、自ら放棄してしまっている人もいるのではないでしょうか。
(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会◆立場の違う2人の触れ合い華子も美紀も、互いに異なる価値観に触れることで変わるきっかけを掴みました。
立場の違う2人が触れ合うことで、“共存”できるほど簡単な世の中ではありませんが、「多様性」が広く求められる現代において、この柔軟な姿勢はとても重要だと思います。
マクロな視点でいえば、人と人との出会いの尊さを訴えている作品とも言えます。
シスターフッドムービーと称した本作ですが、“自分らしく生きる”ためのヒントは、男女問わず見つかるはずです。
しかし、“自分らしく生きる”ことを妨げられてしまう女性たちを生み出してきた社会の構造があるのは事実です。
それを本作は、冷静につぶさに描き出しています。
一人でも多くの方に、本作に“出会って”ほしいと思います。
きっと観る人に、何かの気付きやきっかけを与えてくれる映画だと思います。
→『あのこは貴族』の詳細はコチラ(公式HP)文筆家・折田侑駿さん1990年生まれ。
映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。
折田さんツイッター。
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