鉄欠乏に注意!栄養型うつは食事で防ぐ|必要な栄養素ととりたい食べ物は
ここ数年、自殺は減少傾向にあった。
それが昨年の7月以降から増加に転じ、なかでも女性の自殺者が増えている。
これは、世代にかかわらないのが特徴だ。
昨年10月に「厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センター」が発表した報告によると、自殺者急増の陰には、コロナ禍による失業、収入減少、生活苦があるという。
→厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センターの発表はコチラ栄養素の欠乏がうつを招く(写真/PIXTA)「新型コロナで外出自粛によるコミュニケーション不足や運動不足、失業や失業の不安、通勤・通学でふだんはいない家族の在宅時間増により自分の時間がなくなるなど、あらゆる事柄が、うつ状態の発症や増悪に関与していると考えられます。
それに加えて、外に出ないようになり、日光を浴びて体内で生成されるビタミンDが不足してしまうなど栄養の問題もあります」こう話すのは、見逃されている栄養の問題による「栄養型うつ」の啓発に取り組んできた、埼玉県川越市の山口病院副院長・奥平智之さんだ。
栄養とうつ状態。
いったいどういう関係があるのだろう。
【目次】うつ病とは?どんな症状が出るのか?うつ病と食事との関係、「栄養型うつ」とは?ストレス発散のための過食が栄養型うつ悪化の原因に栄養型うつ予防のために摂るべき栄養素と食材うつ病とは?どんな症状が出るのか?うつ病は、思考力が奪われる病気だ。
発症すると、自分自身を客観的に見られなくなり、短絡的な考えや行動に走りやすくなるという。
「うつ病の初期段階は、眠れないなどの睡眠障害から始まるケースが多いです。
そして、憂うつ、意欲の低下、物事への興味・関心・喜びの減少といったことが起きたり、仕事でミスが増えるなど、集中力の低下、疲れやすい、食欲低下などの症状が見られたりします。
また、申し訳ないなどと自分を責めるような言葉も増えます」(奥平さん・以下同)実際、奥平さんの診察室では、こうした症状を訴える人が増えているという。
→うつ病については詳しくはコチラ「新型コロナ以降、不安やイライラ、憂うつという、うつ状態の症状を訴える女性の患者さんが増えました。
感染を恐れて、薬を取りに来られなくなったために、精神症状が悪化した患者さんも見受けられます」◆在宅勤務でうつ病が再発したケースも奥平さんが診察したなかでは、こんなケースもあった。
「抗うつ薬と栄養の改善でうつ病が治った女性の患者さんが、在宅勤務になってうつ病が再発したケースがあります。
仕事の環境や内容が変わったことがストレスになったり、在宅時間が増えたため、家族との関係がうまくいかなくなったことなどもストレスの原因と考えられます。
女性は、ストレスを受けるとホルモンバランスが崩れて自律神経が乱れやすく、こうした体調変化が原因でうつ病になってしまうこともあります」ストレスにはこんな弊害もある。
「ストレスがかかると、体が必要とする栄養素が増えます。
ですから、ストレスを感じたら、しっかり食べて、しっかり寝てください。
2週間以上うつ状態が続くときは、内科でもかまわないので、医療機関を必ず受診しましょう」だが、うつ状態の原因はストレス以外にもある。
うつ病と食事との関係、「栄養型うつ」とは?うつ状態は鉄欠乏とも密接な関係があるという。
「うつ病と診断する場合、通常は血液検査を行います。
そして、鉄欠乏性貧血や、甲状腺機能低下症など、うつ状態を引き起こす内科的な問題が何もないとわかった上で、最終的にうつ病と診断します。
でも、血液検査を行わず、問診や症状だけで、うつ病と診断しているクリニックもあるのが現状です。
鉄、ビタミンB群、ビタミンD、ビタミンC、亜鉛、マグネシウム、たんぱく質などの栄養素の欠乏が原因でうつ状態になっている場合、私は『栄養型うつ』と呼んでいます。
そして、栄養型うつのなかでも、生理がある女性に特に多いのが『テケジョ(鉄欠乏女子)』です」◆鉄欠乏によって「栄養型うつ」になるケース写真/ゲッティイメージズレバーや牛肉などに多く含まれる鉄は「エネルギーミネラル」といえるほど、エネルギー産生に不可欠な栄養素で、セロトニン(幸せホルモン)や、ノルアドレナリン(やる気ホルモン)などの生成にも不可欠なミネラルだが、「一般的に鉄欠乏の指標とされている貧血の有無だけでは、鉄欠乏かどうかの正しい判断はできません。
そのため、貧血がないために見逃されている『隠れ鉄欠乏』で心身に不調をきたしている女性が多いです。
生理がある女性の約6割は鉄欠乏(フェリチン25ng/ml未満)です」うつ病と栄養型うつがダブルで起こる場合もある。
「女性の場合は、うつ病に、鉄欠乏による栄養型うつが重なるケースがあります。
例えば、落ち着きがなくなったり、何か悶々したりというのは鉄欠乏に特徴的な症状です。
そわそわしたり、ウロウロ歩いたりするようになっているときは、自殺のリスクがすごく高い。
そのような状態になったら、当事者から目を離さず、すぐ入院させた方がいいですね」ひとり暮らしの女性も多い。
友人や職場の同僚など、周囲の見守りも必要だろう。
ストレス発散のための過食が栄養型うつ悪化の原因に自宅で過ごす時間が長くなり、とかく甘いものやアルコールにも手が伸びがちだ。
ストレス発散のつもりでも、実はこれがうつ状態に関係しているという。
◆パンやご飯など炭水化物ばかりなのはNG「お菓子や糖分の多い飲み物、あるいはアルコールの量が増えると、胃腸炎になったり、脂肪が肝臓に蓄積して脂肪肝になったりします。
このように、体のどこかに炎症が起きると、腸からの鉄の吸収が大きく低下したり、鉄が体にあっても使えない状態となったりします。
その結果、テケジョのうつ状態が悪化することがあります。
また、ビタミンB1を中心とするB群の不足による栄養型うつに陥ってしまうこともあります。
おなかいっぱい食べれば、栄養は足りると思っている人もいますが、パンや麺、ご飯などの炭水化物ばかりでおかずが少ないと、ビタミンやミネラルの不足から栄養型うつになることもあります」心と体の不調を吹き飛ばす栄養素は?(イラスト/PIXTA)栄養型うつ予防のために摂るべき栄養素と食材世代にかかわらず不足しがちなのがたんぱく質だ。
しかも、ストレス状態ではたんぱく質の合成が抑制され、分解が促進されるため必要量は増える。
一般に、1日に必要とされるたんぱく質の量は、約1~1.2g×体重(kg)。
例えば、体重が60kgの人は、1日最低でも60gのたんぱく質が必要だ。
ところが、たんぱく質量は卵1個、納豆1パックでは6~8g、肉や魚でさえ100g食べても20g前後と、その量は案外少ない。
たんぱく質は筋肉などの体の組織だけではなく、脳内ホルモンやエネルギーなどの材料にもなる。
その際に必須なのが、鉄やマグネシウムに加えてビタミンB群だ。
不足すると、疲れやすい、記憶力や集中力が落ちるなどの影響が出る。
そして、このビタミンB群とたんぱく質は、栄養型うつの予防と治療の基本となる栄養素だ。
ビタミンB群は種類が多いので、栄養型うつの予防に必要なそのほかの栄養素とともに、次にあげておこう。
ビタミンB群B1…豚肉(特にヒレやもも)、うなぎなどB2…レバー、うなぎ、真がれいなどB6…牛レバー、さば、鶏胸肉、豚ヒレ、鮭、さんまなどB12…かき、あさりなどの貝類、牛・鶏レバーなどナイアシン…鶏胸肉、鶏ささ身などパントテン酸…レバー、鶏ささ身、子持ちがれい、納豆など葉酸…レバー、ほうれん草、ブロッコリー、モロヘイヤ、枝豆などビオチン…レバー、真がれい、鶏卵などビタミンDビタミンDは、栄養を吸収する腸や、感染予防に大切な気道の「粘膜ビタミン」で、セロトニンの生成にも関与。
D欠乏は新型コロナ重症化の一因といわれる。
1日15~20分程度は日光浴をしたい。
もしくは、鮭、真いわしやさんまなどの青魚で補いたい。
亜鉛「バランスミネラル・免疫強化ミネラル」の亜鉛は、心身のストレスや炎症を和らげるホルモンの生成など、体のあらゆる機能のバランスを保つ。
亜鉛欠乏は物忘れにつながることも。
亜鉛を多く含むかきや牛肉、豚レバーなどは、しっかり摂っておきたい。
マグネシウム筋肉を緩めたり、ストレスを和らげたりするほか、免疫にかかわる細胞の活性化にも欠かせない。
亜鉛と同じくストレスで不足しやすい。
ビタミンC「抗酸化ビタミン」の代表格。
これは、活性酸素を除去することでストレスを軽減したり、鉄や亜鉛、マグネシウムなど、メンタルヘルスに必要なミネラルの吸収を高めたりする。
免疫力のアップにも欠かせないので、しっかり摂りたい。
「食事を見直して、栄養型うつを防ぐことが、非常に大事だと思います。
それが、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染予防にもつながります」教えてくれた人:奥平智之さん山口病院副院長、日本栄養精神医学研究会会長。
精神科医・漢方医・認知症専門医。
「メンタルヘルスは食事から」をモットーに、栄養医学を取り入れた診療を行う。
著書に『食べてうつぬけ鉄欠乏女子(テケジョ)救出ガイド』(主婦の友社)など。
https://www.dr-okudaira.com/取材・文/ささきゆり※女性セブン2020年12月3日号https://josei7.com/マンガでわかる食べてうつぬけ鉄欠乏女子救出ガイド●その眠気、実は病気のサインかも!冬季うつ病、糖尿病などの”眠さ”の特徴とは?●ストレスやうつに悩む人にはバナナがおすすめ!効果UPには牛乳をプラス●コロナうつはこれからが本番!今すぐできるストレスを軽減する方法とは?